
こんにちは、クラウドサインで CRE(Customer Reliability Engineer)をしている藤谷です。
CRE は「Customer Reliability Engineering」の略で、お客様やビジネス部門で発生した課題をエンジニアリングで解決する役割を担います。 営業・カスタマーサクセス・エンジニアリングのハブとなり、技術支援からインシデント対応まで幅広く対応しています。
CRE チームでは、お客様からのお問い合わせやご依頼に迅速かつ的確に対応するため、日々業務プロセスの改善に取り組んでいます。
今回はその一環として、既存の問い合わせ受付の社内フロー(具体的には Slack ワークフローの途中)に AI による問い合わせ内容の課題整理ステップを追加しました。
CRE の責務は、単にお客様からの質問に回答するヘルプデスクのみではありません。課題の真因を特定し、根本的な解決まで導くことが求められます。 そのため、問い合わせ対応において「顧客課題の見落としがないようにすること」が重要と考えています。
本記事では、問い合わせにおける課題整理プロセスで AI がサポート役として機能する活用事例を紹介します。
CREの問い合わせ対応フローと課題
まず、私たちの問い合わせ対応フローを簡単に紹介します。 お客様からの質問や依頼は、主に Slack のヘルプデスク専用チャンネルを経由して CRE に届きます。 届いた内容はチケットとして起票し、担当者がアサインされます。
問い合わせの流れは以下のとおりです。
- 調査依頼: Slack ワークフローを利用し、お客様からの問い合わせ内容を入力(社内のビジネス部門などの依頼者→CRE)
- 内容確認:問い合わせ内容の確認と、問い合わせの課題整理(CRE)
- 課題整理は以下のとおり行っています
- (1)質問/問題の理解: 顧客が直面している問題は何か
- (2)根本課題/解決策の特定: 問題を解決して何を達成したいのか、それを知ってどうしたいか、解決したい課題の仮説
- 課題整理は以下のとおり行っています
- 課題整理結果の認識齟齬確認(CRE→依頼者)
- 調査・回答(CRE→依頼者)
特に注目したいのは「2. 内容確認」のステップです。 お客様からの問い合わせは、時には長く複雑な文章で寄せられます。 CRE 担当者はまずその内容を正確に把握し、重要なポイントを整理し、ビジネス部門などの依頼者と認識齟齬がないか確認しています。
しかし、この課題整理の作業において、重要な情報を見落としてしまうリスクが常に存在していました。 見落としがあると、表面的な対応に留まってしまい、問い合わせの内容の誤解が発生したり、根本的な課題解決に至らない可能性があります。 そこで、課題整理の精度向上と見落とし防止のために AI のサポートを導入することにしました。

AIによる課題整理のサポート
そこで、AI を課題整理のワークフローに組み込むことを試してみました。 具体的には、Slack のワークフローでお客様から問い合わせがあった直後、CREが課題を整理する前に、AI が課題整理の下書きを自動でスレッドに投稿します。
CRE は、AI が生成した下書きを土台に課題を確認するため「なぜそれが起きたか」「何を達成したいのか」を、理解・整理しやすくなりました。
「課題の整理」をAIが下書きした例
- 問い合わせがヘルプデスクのチャンネルへ投稿される(内容はブログ用に記載)
- Slack のワークフローが自動で進み、ワークフローの AI アクションが問い合わせ内容を整理(この段階では下書き状態)
- CRE の担当者は AI の下書きを参考に課題を整理する
- 課題の整理結果を問い合わせをしてきた依頼者にメンションを付け、認識齟齬がないか確認する
実装の裏側
この課題整理機能は、Slack ワークフローのカスタムステップを利用し、Azure OpenAI の API を活用する形で実装されています。 このカスタムステップは、弁護士ドットコム社内の有志が開発したもので、社内の多くの人が活用しています。 開発してくれた有志には感謝。

また今回の AI 課題整理の実装に伴い、以下のような CRE 内部のガイドラインも周知しました。 顧客課題を解決するためには、課題を正確に理解する必要があります。プロダクトを提供する側として責任を持つためにも、最終的には人間の目で確認する必要があります。
- AI の出力はあくまで「参考情報」として利用すること。AI が生成する情報には誤りや不正確な内容を含む可能性がある。
- 最終確認と修正は必ず自身で行うこと。問い合わせ内容の整理や振り返りの作成では、AI が提示した内容を鵜呑みにせず、事実との整合性や正確性を CRE の経験に基づく深い考察で検証し、必要に応じて加筆・修正すること。
- 課題の本質を追求するには、AI の補助に加え、経験に基づく専門的な知見が不可欠である。確認し、必要に応じて修正すること。
まとめ・今後の展望
今回は問い合わせ対応時の最初の一歩である課題整理の AI サポートの事例を紹介しました。
今後は問い合わせフローの改善点を洗い出しつつ、調査、回答作成、回答内容レビュー、対応後の振り返り、他の業務プロセスでも AI を実装・活用していくことを考えています。 (実は今回紹介した以外にも問い合わせフローの中で AI 活用しており、別の記事で紹介できたら紹介いたします)。
【参考】課題整理で利用しているプロンプト
AIに指示しているプロンプトを見る
あなたは、顧客の言葉の裏にある「本当に解決したいこと」を見抜き、その達成を阻む「構造的な問題」まで特定する能力に長けた、経験豊富なCustomer Reliability Engineer(CRE)である。あなたの使命は、表面的な事象(WHAT)の奥にある、顧客の目的(WHY)と、製品が抱える根本原因(ROOT CAUSE)を切り分け、戦術的かつ戦略的な解決策を提示することだ。 顧客からの問い合わせ内容を元に、以下の各項目について、専門家として断定的な口調(「〜である」)で、簡潔に分析せよ。 ## 分析と提案の項目 ① 質問/問題の理解: 顧客が直面している問題は何か ・顧客の問い合わせ内容を「誰が、いつ、どこで、何を、どうした際に、何が起きたか」、顧客が知りたいことをストレートに整理して記述する。 ・顧客は何を知りたい(してほしい)のかを分析し記述する ・この時点では、FACT(事実)のみを記載し、一切の解釈や推測を含めない。 ② 根本課題/解決策の特定 (顧客はこの問題を解決して「何を達成したい」のか、それを知って「どうしたいのか」、解決したい課題と解決後の状態の仮説を立てる。 これを回答してどうしたいのかを考える。なぜそれを知りたいのか? ③一般的な解決策や調査のアドバイス もしあなたが解決策を知っていれば、解決策を提示し、調査のためのアドバイスを生成してください。 ## 出力形式とルール ・各項目、箇条書き「・」で始める。 ・それぞれ30~40文字の短い文章で簡潔に記載する。 ・余計な挨拶や前置きは一切含めず、以下の形式を厳守する。 --- ① 質問/問題の理解 ・○○ ・○○ ・○○ ② 根本課題/解決策の特定 ・○○ ・○○ ・○○ ③ 一般的な解決策や調査のアドバイス ・○○ ・○○ ・○○



