弁護士ドットコム株式会社 Creators’ blog

弁護士ドットコムがエンジニア・デザイナーのサービス開発事例やデザイン活動を発信する公式ブログです。

アクセシビリティの新卒研修を実施しました

タイトル画像

この記事は、弁護士ドットコム Advent Calendar 2025 の 2 日目の記事です。

こんにちは。弁護士ドットコムでクラウドサインのフロントエンドを担当している林(@rinyu_tech)です。

弁護士ドットコムで、新卒エンジニアに対してアクセシビリティに関する研修を実施しました。本記事では、なぜ新卒研修でアクセシビリティを扱うことにしたのか、どのような内容で実施したのか、そしてどのような効果があったのかをご紹介します。

なお昨年のアドベントカレンダーでは、アクセシビリティに関する実装の具体例としてアクセシブルなドロップダウンメニューの構成という記事を公開しています。こちらも合わせてご覧ください。

研修資料

まずはアクセシビリティ新卒研修の資料を公開します。一部内容を省略していますが、全体の流れやポイントは把握できます。

資料の内容としては、アクセシビリティの定義から始まり、法律や障害のモデル、実践方法、支援技術、ガイドライン、クラウドサインでの取り組みを紹介しています。

speakerdeck.com

アクセシビリティの社内広報

研修の話をする前に、私がしているアクセシビリティの活動について紹介します。

私は社会的価値の高いサービスを作って社会に貢献し対価を得る仕事をしたいという想いがありました。それこそがもっとも持続性の高い IT エンジニアとしてのキャリアだと考えたからです。

社会的価値の高いサービスは、社会への影響力も大きいものです。そのため、すべての人にとって使えるものである必要があります。そうなるとアクセシビリティの普及は避けては通れません。

そのため、アクセシビリティチームに所属し、社内でのアクセシビリティ意識向上とスキル普及を目的として、さまざまな取り組みを行っています。

なぜ私がアクセシビリティ研修を担当することにしたのか

アクセシビリティの活動をしている中で、新卒エンジニアの研修の機会があったため手を挙げました。

なぜ手を挙げたかというと、活動の一環として新卒研修はアクセシビリティを普及する良い機会だと考えたからです。 また弊社プロダクトのクラウドサインは社会インフラを目指している社会的価値の高いサービスだと自負しています。そのため、新卒エンジニアがこれからジョインするにあたって大事にしてほしい考え方や価値観を伝えたいと思いました。

どのような目的なのか

研修の目的は、下記のとおりです。

  • アクセシビリティの基礎を把握してもらう
  • 現場配属後に意識できるレベルまで認識を促す
  • 体験を通じたアクセシビリティの重要性を実感してもらう

研修の時間だけですべてを理解することは難しいため、現場配属後に意識できるレベルまでの理解を得ることを目標としました。

研修内容の動機と工夫

研修内容に対してなぜその話をしたかの動機や、工夫したポイントを紹介します。

研修全体を通じて、ハンズオンやディスカッション時間を確保するなど、受講者と対話しながらの進行を心がけました。理論だけでなく実際に体験することで、アクセシビリティの重要性を実感してもらえるといいなと考えたからです。

アクセシビリティとは何か

(スライド p.8)

スライド: 「アクセシビリティについて説明できますか?」という問いかけ

アクセシビリティとは何なのかを説明するうえでは、身近な実例を交えながら理解を深められるようにしました。 たとえば、目が見えなかったり耳が聞こえなかったりするような例だと、自分がそうではないから遠い関係のない世界だと捉えられがちです。しかし、メガネを忘れた場合や、手を汚したり怪我をした場合など一時的な障害を例に出すと身近に感じられます。障害者のためだけのものではないということを伝えることで、アクセシビリティをより身近に感じてもらうことが狙いです。

障害者差別解消法について

(スライド p.30)

障害者差別解消法では、アクセシビリティ対応が努力義務という形で法的に推奨されています。プロダクト開発においても無関心ではいられない要素の 1 つになっています。合理的配慮の定義や考え方を理解してもらうことで、アクセシビリティ対応のユーザーへの価値をイメージしやすくなるはずです。

障害の社会モデル

(スライド p.38)

障害の医学モデルと社会モデルについては、障害に関する本質的な理解を深めるのに適していると考え、研修に組み込みました。 障害に対して個人が責務を負うか社会が責務を負うかの違いは、アクセシビリティ対応の考え方に大きな影響を与えます。単なる技術的な義務ではなく、社会的な責務であり、社会インフラを目指すサービスで意識すべき価値観だと考えています。

アクセシビリティの実践

(スライド p.52)

HTML はただ Web ページを作るための言語ではなく、情報の構造化や意味付けを行うための言語であることを意識して欲しかったため、その点を強調して説明しました。セマンティックな HTML を使うことで、支援技術が情報を正しく解釈しやすくなり、アクセシビリティが向上します。

アクセシビリティツリーに関しては、それがどんな情報を持っているのかを理解することで、支援技術がどのように Web コンテンツを解釈しているのかをイメージしてもらえるよう構成しました。各要素ごとに実例を示し、ブラウザ画面上の表示、DOM、アクセシビリティツリー、開発者ツールから見えるプロパティを並べて説明しました。これにより、普段見ている画面表示に対してどのようなアクセシビリティツリーが構築されるのか分かりやすくしました。

スライド: アクセシビリティツリーのロールの説明。ブラウザ画面上の表示、DOMツリーなどのスクリーンショットが含まれている

アクセシビリティを高めるための手段として WAI-ARIA の存在を知ることは重要だと思い、取り上げました。 概要や使用例を説明するとともに、誤用のリスクが伴うため、注意喚起しました。

障害のあるユーザーの環境

(スライド p.87)

障害のないユーザーからすると、障害のあるユーザーがどのような環境で Web サービスを利用しているのかイメージしづらいことがあります。そこで、代表的な支援技術を紹介しました。 支援技術がどんなもので、どのように操作するのかを知ることで、サービスを設計・実装する際に考慮するべきポイントが想起しやすくなります。その中でも特にスクリーンリーダーは代表的な支援技術であるため、それを使って視覚障害のあるかたがアクセシビリティチェックをしてくださった実際の動画を共有し、理解を深めてもらうことを目指しました。

Web アクセシビリティのガイドライン

(スライド p.93)

アクセシビリティチームでは WCAG を基準にした活動をすることが多いため、これについて伝えることは欠かせないと考えていました。適合レベルの定義や、一部達成基準の具体例を示し、実際の開発においてどのように活用できるかを説明しました。これにより、アクセシビリティ対応は具体的にどんなものなのかを知ってもらうことを目指しました。

クラウドサインでの取り組み

(スライド p.111)

アクセシビリティ対応がある程度は進んでいるという実感を持ってもらいつつ、配属後に「ここに使われていたんだな」という気づきを得てもらえるようにしたかったため、この章を設けました。改善事例に対応する WCAG 達成基準と実装方法を説明し、実際のプロダクトに生かされていることを示しました。

またアクセシビリティ試験結果の公開とその反響、社内での開発プロセスへの組み込みやガイドライン作成といった取り組みも共有しました。これにより、現場配属後にどのように取り組んでいけばよいかのイメージを持ってもらえるようにしました。

スライド: WCAG 2.2 達成基準 2.4.7「フォーカスの可視化」の紹介と、クラウドサインにおける実装の実例

ハンズオン

(スライド p.48, 133)

アクセシビリティの恩恵を体感してもらいたかったので、実際に手を動かして理解を深めるハンズオンを設けました。講義形式だけだと長時間の座学で受講者を眠くさせてしまう可能性があるため、参加型の時間を設けることで集中力を維持してもらう狙いもありました。 内容としては、アクセシブルなサイトとそうでないサイトをキーボードのみで操作し、アクセシビリティ配慮の有無による違いを体感してもらいました。 ハンズオンにより研修中に受講者とのコミュニケーションも図れ、より意図が伝わりやすくなったと感じています。

どんな効果があったのか

研修後のアンケートやフィードバックを通じて、以下のような効果が確認できました。

  • 研修発表会では「アクセシビリティ研修の内容が印象に残った」という嬉しいフィードバックをもらえました
  • 新卒以外の既存メンバーにも研修を視聴してもらったところ、良い資料であり研修だったという声が上がりました

このほか、アクセシビリティチームの活動全般を通して、エピック開発の設計や実装の段階でアクセシビリティを考慮するメンバーが増えてきていると実感しています。

まとめ

この研修を通じて、社内で実施する機会の少なかったアクセシビリティの体系的な学習を提供できました。特に、実際に体験することでアクセシビリティの重要性を考える機会を提供できたことは、大きな成果だったと考えています。また研修資料の準備を通して、よりアクセシビリティに関する理解を深めることができました。

この研修やアクセシビリティチームの活動をきっかけに、新卒エンジニアだけでなく既存のメンバーにもアクセシビリティへの関心が広がりました。設計や実装の段階で自然とアクセシビリティを考慮する文化が育ちつつあります。

今後も、このような取り組みを継続・改善していくことで、誰もが使いやすいサービスの提供を目指していきたいと考えています。アクセシビリティは特別な対応ではなく、すべてのユーザーにとってより良い体験を提供するための基本的な要素であることを、これからも社内で発信します。